任意後見制度
〜将来の安心のために今から備える〜
任意後見制度は、将来のために、支援する人も支援内容も自分であらかじめ決めることができる制度です。すでに判断能力が不十分な方が利用することができる法定後見制度に対し、現在、本人の判断能力に問題はなく、今は何でも自分で決められるけれども、将来が不安だという方が利用できる制度です。
- 一人暮らしで身寄りがないので、将来、入院した時の手続きや支払いが心配だ。
- 将来、もし認知症になったら困る。銀行や市役所等の手続き、施設の入所手続きやその支払いはどうすればいいのか…アパートの管理や所有している土地を売却する必要が出てきたらどうすればいいのか…
1見守り契約
今現在、自分で何でもできるけれども、将来が不安で、今から少しでも安心したい方に利用をお勧めできるのが、「見守り契約」です。判断能力が低下する前から定期的に面談をしたり、連絡をとったりすることで、生活の状況や健康状態を確認し、あなたを見守ります。あなたに代わって契約などはしませんが、ホームドクターのような気軽な相談相手として、信頼できる方と常に繋がっている安心感を得ることができます。
2任意代理(財産管理)契約
現在、既に病気や身体の障害によって財産の管理ができなくなっている、介護サービスの手続きが難しいとの心配がある方や、将来、病気など身体的な面が心配で、そのような場合に備えたい方にお勧めするのが、「任意代理(財産管理)契約」です。例えば、通帳の保管や預金の引き出し、各種支払い、介護サービス・入院手続きなど、契約で決めた手続きをあなたに代わってしてもらうことができます。
3任意後見制度の仕組み
判断能力に不安が生じた後に支援が始まります。
任意後見制度の
3つのステップ
- ステップ1
- 支援してくれる人(任意後見受任者)と任意後見契約を締結します。
- ステップ2
- 判断能力が衰えた時に、家庭裁判所に任意後見監督人選任申立てをします。
- ステップ3
- 任意後見監督人が選任されて、任意後見が始まります。
※スライドしていただくと右部分が表示されます。
任意後見制度の
特徴を知っておきましょう
利 点
- 法定後見制度では、後見人等は家庭裁判所が選任することになりますが、
任意後見制度では、自分を支援してもらう相手(任意後見受任者)を自分自身で選ぶことができます。 - 契約の内容について、任意後見受任者と納得のいくまで話し合って決めることができます。
そのため、きめ細やかに自分の意思を契約内容に反映できるので、望みどおりの支援が受けられます。
検討が必要な点
契約締結までの問題点
- 任意後見契約の内容は多岐にわたるため、契約を締結する時点で、本人に契約内容を理解する判断能力が必要になります。
- 自分を支援してもらう相手(任意後見受任者)を見つける必要があります。
遠方に居住している人では、頼りたいときに不便です。
また、自分と年齢が近いと、自分が支援してほしくなった時に任意後見受任者も歳をとってしまうので、
後見業務を行うのが難しくなってしまうかもしれません。
さらに、任意後見契約は、あくまでも契約なので、後見事務の内容や報酬等についてお互いに納得しないと契約は成立しません。 - 自分を支援してもらう相手(任意後見受任者)との信頼関係を築くのに、時間がかかることがあります。
専門職を任意後見受任者に依頼した場合、自分のことを理解してくれて、
自分が信頼できるようになるのに、時間をかけて面談を繰り返す必要があります。
契約発効後の問題点
- 任意後見人は、取消権がありません。
本人に不利な契約(悪徳商法等)だったとしても、任意後見人として取り消すことができません。 - 任意後見人と任意後見監督人の2人分の報酬が必要になります。
「任意後見制度」ここが知りたい!
任意後見制度を利用する際にはさらに詳しくその特徴を知っておきましょう
- 任意後見契約では、私の代わりにどんなことをしてもらえるのですか?
-
大きく分けて、日常の継続的な事項と臨時的な事項について代理してもらえます。支援してもらいたい内容の代理権目録を作成します。
1.継続的管理業務として
- 預貯金の管理(振込依頼・払戻し、口座の変更、口座の開設、解約等)
- 定期的な収入(家賃・地代・年金・障害手当金等)の受領
- 定期的な支出を要する費用(家賃・地代・公共料金・保険料・税金等)の支払い
- 生活費の送金
- 証書等(登記済権利証・実印・銀行印・印鑑登録カード・個人番号カード)の保管
2.臨時的な管理業務として
- 介護契約・福祉契約・入退院手続き・施設入所契約
- 保険の締結・変更・解除、保険金の請求受領
- 不動産の売却、賃貸、住宅等の増改築・修繕
- 行政官庁手続き(年金、登記申請・税金の申告等)の一切の代理業務
- 任意後見人や任意後見監督人へ報酬は?
- 任意後見人の報酬は、契約の相手方と話し合いで決め、任意後見契約公正証書に記載します。任意後見監督人の報酬は、家庭裁判所が決定し、本人の財産から支払われます。
- 一度締結した任意後見契約は変更できますか?
- 変更できる内容とできない内容があります。報酬額を変更することはできますが、任意後見人を別の人にする変更や代理権の範囲を変更することはできません。ただし、現在の契約を解除して、改めて変更したい内容で任意後見契約を締結することはできます。
- 任意後見契約を解除できますか?
-
契約当事者どちらからも解除できます。
- 任意後見監督人が選任されていない場合 ▶︎ 公証人の認証を受けた書面によっていつでも解除できます。
- 任意後見監督人が選任されている場合 ▶︎ 正当な理由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、解除できます。
4死後事務の委任契約
任意代理・任意後見契約は、本人が死亡すると、その時点で終了してしまいます。それでは、入院費の清算・葬儀・納骨などはいったいどうなるのでしょうか。このような問題に対応するために、任意後見契約とあわせて定めておくと安心なのが、死後事務の委任契約です。
亡くなった後の支援です
あなたの気持ちを尊重して、人生の最後をしめくくるための契約です。
死後事務の
委任契約で
できること(例)
- 医療費などの支払いに関する事務
- 老人ホームなど施設利用料の支払いなどに関する事務
- お通夜や葬儀、納骨、永代供養などに関する事務
- 行政官庁などへの届出事務
- 家財道具や生活用品などの処分に関する事務...など
5遺 言
遺言は、最後の自己決定です。
そして、残された者への最後の
メッセージです。
私が私であるために、今できるもう一つの仕組みです。財産は自分の生きてきた証でもありますが、天国に持っていくわけにはいきません。自分の財産をだれに、どのように分けるのか。遺言があれば、遺言が優先されます。
遺言があった方が望ましいケース
相続人の間で、遺産分割協議をするのは難しいと思う…
- 子がなく、たくさんの兄弟がいるが、配偶者に話し合いをさせるのは大変そうだ。
- 兄弟姉妹もすでに亡くなっており、付き合いのない甥姪がどうも何人もいるようで、連絡をとるだけでも難しいと思う。
- 財産が今住んでいる土地建物だけしかないから、自宅を配偶者が相続する代わりに兄弟や甥姪に現金を支払うとなると、自宅の売却も…。自宅に住み続けられるようにしてあげたい。
- 障害をもった子に多く遺したい。
- 障害をもった長男の面倒を見てくれている長女に多く遺したい。
相続人でない者に遺産を分けたい。
- 相続人が一人もいないから、せっかくなら、お世話になった方や施設に財産を遺したい。
- 動物愛護団体やユニセフなど、社会のために寄付したい。
- 長男が死亡した後も、ずっと長男の嫁が世話をしてくれているので、お礼の気持ちとして遺産を渡したい。
- 内縁関係の妻や夫(事実婚)がいるので、連れ添ったパートナーの生活を守りたい。
遺言で決定できること
- 財産に関すること
- 遺贈・相続分の指定・遺産分割方法の指定・配偶者居住権・
遺言執行者の指定・生命保険金受取人の指定 など
- 相続人に関すること
- 推定相続人の廃除・祖先の祭祀主宰者の指定 など
遺言のしかた
公正証書遺言
あなたの意向をもとに公証人が遺言書を作成します。公証役場で遺言をしますが、自宅、病院などでもできます。
「公正証書遺言」のメリット
- 家庭裁判所の検認手続きが不要で、遺言者の死亡後、ただちに執行できます。
- 遺言の内容、真偽などについてのトラブルを未然に防止できます。
- 改ざんなどの心配がありません。
「公正証書遺言」のデメリット
- 数万円の費用がかかります。
自筆証書遺言
自分で全文と日付・名前を書き印鑑を押します(財産目録は自書の必要はありません)。間違えたときの訂正方法が決められていますので、注意が必要です。
「自筆証書遺言」のメリット
- いつでも簡単に作成することができます。
「自筆証書遺言」のデメリット
- 専門家の関与なく作成した場合、気持ちは伝わっても、遺言の内容が不明確になるなど、遺言による処分ができなくなることがあります。
- 改ざん・紛失等の危険があります。また、発見されなかったときは、せっかく遺言を書いてもその意思は実現されません。
- 家庭裁判所の検認手続きを経なければ執行できません。
新制度自筆証書遺言書保管制度
令和2年7月10日から全国の法務局で自筆証書遺言書保管制度が開始されました。この制度は、遺言者本人が自筆証書遺言書を法務局に保管することを申請できるもので、遺言者にも、相続人にもメリットがあります。
- 法務局が管理するため、遺言書を改ざんされたり紛失したりする恐れがありません。
- 自筆証書遺言書に必要とされる家庭裁判所での検認の手続きが不要です。
- 遺言書を原本及びデータの両方で保管するため、遺言者は、全国の法務局で遺言者の内容を閲覧することができます(原本自体の確認ができるのは保管を申請した法務局のみです)。
- 遺言者が死亡した場合、特定の方に遺言書を保管している旨のお知らせを送ることができます。
以上のメリットから、自筆証書遺言書保管制度は、安価な手数料で遺言書を適正に管理でき、相続人の手続きを緩和するものとして注目されています。
このほかにも秘密証書遺言(民法第970条)の方法もあります。また、死亡の危急に迫った人等がすることができる特別の方式の遺言も認められています。